2012年6月27日水曜日

企画委員×劇作家 対談インタビュー


昨年の『異邦人』(作:山岡徳貴子 演出:柳沼昭徳)に引き続き、
2回目となる京都舞台芸術協会プロデュース公演『建築家M』。
今回は1つの戯曲を2人が演出を行い、さらに1枚のチケットで2作品とも連続して見ることができる、
まさにプロデュース形式でしか実現できない上演スタイルです。
5月末日、まさに今公演の発起人である企画委員の丸井重樹と山口茜、
そして新作戯曲を書き下ろした田辺剛の3人に集まってもらい、今回の公演についての魅力を語っていただきました。

―まず、企画の経緯について伺います。
企画委員のお二人が決まった時には、すでに2人の演出家を起用することは決まっていたのでしょうか?
山口茜(以下、山口):先に「田辺さんの戯曲をやりたい」と私が言ったんですよね。
田辺剛(以下、田辺):多分「田辺の戯曲を二人の演出家に」ってところまで決まっていたんじゃなかったっけ?
山口:そうだ!
田辺:山口さんは「田辺さんの戯曲は、本人とは異なる演出によって戯曲の世界が全然違う方向に膨ませられる可能性があるんじゃないか」ということを前からよく言ってくれていました。普通は、書いた本人が演出することがほとんどでしょ?  他の人に渡すものも見てみたいと。僕は、それは自分の戯曲の中に余白の部分があって、舞台を立ち上げる時に変化させたり膨らませたりすることができるということなのかなぁって思ったんですけど。
丸井重樹(以下、丸井):最近、現代演劇が演出というものにどんどん重きが置かれてくるようになって、演劇に物語はもういらないのではないか、戯曲を元にした創作や、既成の戯曲なら解体しようっていう風潮が現代演劇の中にありますよね。それがいいとか悪いとかは別として、田辺さんの、特に最近の戯曲は、物語だけを見せたい訳ではなく、でもちゃんと物語があるっていう、そのバランスを保ちながら強い戯曲を目指そうとしているんじゃないかという予感があって。では「強い戯曲」ってなにかということを考えると、田辺さんがここ最近ずっと取り組んでいる「寓話的な世界」を描く手法で劇の世界に強度が生まれているんじゃないかと。それは「普遍性」と言いかえられるかもしれないんだけど。その感覚は『旅行者』(20063月初演、OMS戯曲賞佳作受賞)以降ずっとあって、「面白いな」と思ってました。台詞の文体も書き言葉だし、寓話的ストーリーを軸に据えて、これまでとは違うアプローチで戯曲を演劇の中心に据えようとしている戯曲を書いていることに興味があったことは確かなんですよね。だから「田辺さんの戯曲で」って言われたときに、「あっ、それ面白いかもな」っていうのは思いました。
山口:私は強い物語性に惹かれるタイプなんですね。ニットキャップシアターのごまさん(ごまのはえ)には「子どもがお母さんに絵本を読んでもらうのを待っているような状態だね」って言われたんやけど。でもまさにそれで、「全然いいんです、物語で!」って(笑)。だけど絵本を作る人って、実は難しいことを噛み砕いてくれてるわけやん?  田辺さんもそうで、それが観客としてすごく愛されている気分になる。伝わるようにするってそんな簡単なことじゃないよなぁって。下手にわかりやすくするとベタになって見てられなくなるし。その調整が田辺さんはすごく慎重。

―新作を作る時は、その役者へあてがきするということはないのでしょうか?
田辺:あてがきはないですね。当て書きから抜けることができて、今みたいなものが書けるようにはなってると思います。「あいつ、こんな長台詞で大丈夫かなぁ」なんて考えていたら無理やと思うから。そこで苦しんだ時期があって、ちょっと抜けることができたので、比較的好き勝手書けるようになれたと思う。役者は、今はその都度人を集めて上演する形を取っていて、もちろんそのリスク、人選ミスみたいなあやうさはいつもつきまとうけど、最近コツはつかんできたかなぁって。もう大体声をかける人もゆるやかに決まってくる。大体5人キャストがいて4人は大体レギュラーメンバーみたいなことになって、1人だけ初めての人にお願いしようかなっていうのはあるけど、5人いて5人とも全く初めてっていうのは最近なくて。
―田辺さんだったら、この『建築家M』をどう演出しますか?
田辺:いつかは自分でやろうと思いますよ。それがどうなるかはちょっとわからないけど。この前リーディングやった時(*)のキャストは、ぼくは結構いいと思っています。

―では、次に二人の演出家についてお伺いします。
柏木さんは演出家コンペティションの中から選ばれたのですよね?
丸井:まず、そもそも演出家をコンペティションで選出することになった理由は、僕らが知っている範囲の中から選ぶ以外に、新しい才能や出会いを求めていこうということで公募にしました。でもその時に「必ずコンペから2人選ぶルールにはしないでおこう」って決めてたんですね。だから該当者ゼロになる可能性も含んだまま演出家コンペティションを開催したんです。けれども「柏木さんになら託せる」という結論が出て、コンペからは柏木さん1人を選ぶことになりました。
―「柏木さんだったら」と思った理由はなんでしょう?
山口:すごく信頼が置けると思った。作品が面白いことももちろんやけど、それだけじゃなかったですよね?  柏木さんなら絶対お願いできるっていう、不思議な暗黙の了解が全員にあって。
丸井:戯曲や俳優に対しての真摯さが作品からすごく伝わってきたということはありましたよね。「(他と比較される)コンペだからちょっと奇をてらってみよう」とかいう感じが全然せず。「あ、ものすごく真面目に取り組んでる、この人」というところから、面白い作品を生むところに結実している感じがした。もちろん他の人も真面目にはやっていたけど、ただの思いつきなのではないかとか、奇抜な演出に重きが置かれすぎているとか、観る人によって好き嫌いがはっきり分かれそうとか…。でも、柏木さんは戯曲にまっすぐ取り組んだ正攻法だった。その上で面白かった。そういう安心感みたいなものは…。
山口:ありましたね
―その後の柏木さんの公演(『あくびと風の威力』作:角ひろみ 演出:柏木俊彦 @相鉄本多劇場、20122月)を見たときにコンペティションで見たときとは全く違うものっておっしゃっていましたよね?
丸井:安心感に揺るぎはなくて、そこからさらに「手堅い演出」というだけではないなこの人って。それが確認できたので「これは面白いことになるぞ」っていう期待が今、着実に増しているんです。
―田辺さんはどうですか?
田辺:僕は全然異存がなくて。2人選ぶんだったら1人は必ず柏木さんだろうと思っていました。頭ひとつ抜けてるなっていう感じがした。あと変化球を投げるやり方で、すごい力技で面白い作品を創ってきた人がいれば、もう一人の枠に入っただろうなという気はするけど、そういう人がいなかったことは残念かな。
―ではもう一人の筒井さんは?
山口:彼女は、久々に面白い演出家になるのではないかという予感が私の中ではしていて。まず私にできないことが彼女はできる。ちゃんと一個一個積み上げて戯曲の世界を立ち上げるタイプの演出家で。外から頼まれて演出する機会ってやっぱりその人を変えるから、「この人には社会にとって成長してもらう必要がある人なのではないか」と私は思った。
―今回お二人とも役者としての履歴の方が長いですよね。お二人とも山口さんや丸井さんと同じような年齢で、でも演出家としては若手っていう・・・・それを押したというのはたまたまですか?
丸井:それはたまたまかな。必ず若手の演出家の中から選ぼうっていう意図はなかったんです。俳優出身っていうことも本当にたまたま。
山口:たまたまですね。
丸井:経歴もよくみたら似てるねって。
山口:柏木さんを選んで、あと1人どうしようと考えた時、私たちが全面的に芸術的なフォローをしなくてはならないような人を選んではいけないというのはすごく思った。少なくともそう言う事は柏木さんには必要なかったから、もう一人にそれをするわけにはいかない。もう一人の演出家にも柏木さんと同じようにある程度の世界観がないと対等にならないと思った。
丸井:今回、新作を頼んでて、「田辺さんの本で」って言っているので、ある程度「田辺剛の戯曲である理由」がないといけないんですよね。それはコンペの選考の時もそういう話になって、「なんでこの本だったのかわからない」って作品はコンペでも落ちてるんです。田辺さんの本をちゃんと扱う、真正面から戯曲に向かってくる、この2人の演出家という選択は間違ってなかったんじゃないかなぁと思います。

―最後に、今回の二つの作品を連続上演した際に、お客様にどんな風にみてもらいたいですか?
丸井:あまり違和感がはっきり出る演出家で違いを楽しむよりは、戯曲を作品創作の中心に据えた演出方法の作品を並べて、「両方面白い、でも明らかに違うよね」というものになるほうがよいのではと思っています。
山口:「明らかに違うのに何が違うのか口で言えへん」ってことになったら最高やなって。
丸井:本当にそう思う。「両方面白かったけど全然違う作品だったよねぇ」って。

―ありがとうございました。本番を楽しみにしています。

5月末日。西院にて)

* 明倫ワークショップとして『建築家M』のリーディングが行われた
 (42日(月)、京都芸術センター・制作室9
 出演:藤原大介、岩田由紀、真野絵里、鈴木正悟、高杉征司、門脇俊輔)